年賀状
これは私が高校生の時の話だ。
高校2年生の時の年明け、私の元に一通の年賀状が届いた。差出人は私。受取人は私がよく知る友人(以後友人Aとする)。
思考が一時フリーズする。差出人、自分?
というのも、その年賀状の差出人の欄には手書きで自分の名前が書かれていたが、私の字ではない。私は自分でこの年賀状は出していないのだ。
まず、なぜ差出人が自分の年賀状が自分に届いたのか。理由はすぐにわかった。切手が貼られていなかったのだ。年賀状の表側に、「切手が不足しています」と書かれていた。
では自分の文字で書かれていないというのはどういうことか?
年賀状の裏側には、こう書かれていた。
「この前貸したエロゲ、どうだった?」
ここで全ての状況を理解する。こんなことをする人間は一人しかいない。私の別の友人(友人Bとする)が友人Aに向けて年賀状を送ったのだろうと察した。
まずわからない人のために説明すると、エロゲとはエッチなゲームのことである。友人Bは、エロゲに精通していた。
届いた年賀状に書かれていたのは私の文字ではない。よってこれは誰か他の人が書いた年賀状。じゃあ誰か。上の情報から友人Bだと推察した。
その時の私の理解はこうだ。
友人Bは、年賀状を利用して私に辱めを受けさせようとしていた。だが、ただ私に卑猥な内容の年賀状を送るだけではつまらない。そこで私の名前で友人Aに年賀状を送り、わざと切手を貼らずに私の元へその年賀状が届くようにした。私の親が郵便受けからその年賀状を受け取り、裏側を見たら
「え、自分の子供(私のこと)、友人にエロゲなんか貸してんの…」
となるだろう。ここで友人Bの企みが果たされる。
実際のところ、この年賀状を郵便受けから受け取ったのは私の兄だった。エロゲ貸してんのかよ…みたいな反応をされたため、必死に弁解した。
説明するまでもないだろうが、この年賀状の送り方、犯罪行為である。新学期が始まったら、友人に
「企みは面白かったけど、犯罪だぞ」
と言うつもりだった。
しかし実際には、私の理解と少し違うところがあったらしかった。
友人Bは、切手をわざと貼らなかったのではなく、素で貼り忘れていたのだ。
友人Bの本来の企みは、友人Aに私の名前で卑猥な年賀状を送ることで、私のことをやばい人間だと思わせようとした、というものだった。
友人Bの本来の企みは失敗に終わったが、そのおかげでその企みはより高次元なものへと進化した。
素で忘れていたとはいえ犯罪行為は犯罪行為なので手放しで感心できたものではないが、辱めを受けたことによる憤りよりも、そんな手口があったのかと感心する方が先行してしまった。